スリッページとは
スリッページは、自分が期待した価格と実際に約定した平均価格の差です。画面で100を見て成行で買い、平均100.12で約定したなら、0.12だけ滑ったことになります。期待した価格を何にするかで数字が変わり、よく使われるのは注文直前の最良気配、買い気配と売り気配の中間値、バックテストならルールが想定した価格(例:次の足の始値)です。スリッページは手数料のように明細に別項目として出ないので目につきにくいですが、毎回確実にコストとして積み重なります。板の基本的な仕組みは「板と注文方法」の記事で扱いました。この記事では、その仕組みからスリッページが生じる過程と、大きさの見積もり方を見ます。
スリッページが起きる理由
スリッページはいくつかの原因が重なって生じます。最も基本的なのは、買い気配と売り気配の間隔(スプレッド)です。成行で買えば売り気配で、売れば買い気配で約定するので、中間値を基準にすると売買のたびに間隔の半分ずつ払っていることになります。次は板の厚さです。最良気配に出ている数量より大きな注文は、次の価格、その次の価格の注文まで順に食いながら約定するので、平均約定価格がだんだん悪くなります。最後は時間です。注文を出して取引所に届くまで、あるいは条件付き注文が発動してから約定するまでの間に価格が動くことがあります。
- スプレッド:最良の買い気配と売り気配の間隔
- 板の厚さ:一つの価格の数量より大きな注文は、複数の価格に分かれて約定する
- 時間の遅れ:注文が届く間や、条件付き注文が発動した後の価格変化
- 急変:ニュースや清算の連鎖で板が一瞬空になるとき
例で計算してみる
例として、売り気配が100.0に0.5枚、100.1に1枚、100.3に2枚出ていて、最良の買い気配が99.9だとします。ここで2枚を成行で買うと、100.0で0.5枚、100.1で1枚、100.3で残りの0.5枚が約定します。支払った金額は 50 + 100.1 + 50.15 = 200.25 で、平均約定価格は100.125です。画面に見えていた最良売り気配100.0と比べると約0.125%、買い気配と売り気配の中間値99.95と比べると約0.175%不利です。同じ板で0.5枚だけ買っていれば、すべて100.0で約定し、最良気配基準のスリッページは0です。スリッページは市場の性質であると同時に、自分の注文の大きさの性質でもあるということです。
成行と指値のトレードオフ
成行注文はいま出ている気配にすぐ約定するので、約定は確実ですが、価格は板の状態しだいです。指値注文は決めた価格かそれより良い価格でしか約定しないので価格は滑りませんが、価格が届かなければ約定しないか、一部しか約定しないことがあります。指値で待っている間に価格が逆へ逃げれば、約定しなかったことの機会費用がスリッページより大きくなることもあります。損切り注文も同じです。決めた価格に達すると成行で出る損切り注文は約定はしますが、急落時には決めた価格よりはるかに悪い価格で約定することがあり、指値で出る損切り注文は価格を守る代わりに、価格が一気に通り過ぎると約定しないことがあります。注文の種類の違いは「証券会社の注文の種類」の記事でさらに見られます。
スリッページが大きくなる場面
同じ銘柄でも、時によって板の厚さは大きく変わります。以下のようなときは、同じ大きさの注文でもより大きく滑りやすくなります。特にレバレッジポジションの損切りや清算は、価格が急に動く瞬間に成行に集中するため、計算機に出た損切り価格や清算価格より実際の約定が悪くなりうることを前もって考えておく必要があります。
- 売買代金の小さいコインや銘柄
- 週末・深夜・連休のように取引が薄い時間
- 新規上場の直後と大きなニュースが出た直後
- 清算が連鎖する急落・急騰の瞬間
- 注文の大きさが最良気配数段の数量より大きいとき
コストとして計算する
一回売買する往復コストは、おおよそ 手数料 × 2 + スプレッド + スリッページ と見られます。一つひとつは小さく見えても、売買が多ければすぐに積み上がります。例として手数料が片道0.1%、スリッページが片道0.05%なら往復で約0.3%で、1年に100回往復すると単純合計で約30ポイントがコストとして出ていきます。そのため短い足で頻繁に売買する戦略ほど、スリッページの仮定が結果を大きく変えます。バックテストを見るときは、スリッページを0にした結果をそのまま信じず、取引の少ない銘柄や短い足なら、スリッページを多めに入れて結果がどれだけ減るか確かめます。売買回数とコストの関係は「売買が多いほど漏れるお金」の記事にさらにあります。
スリッページを前もって見積もる方法
スリッページは注文前にある程度見積もれます。板で最良気配数段に出ている数量を自分の注文の大きさと比べれば、何段まで食うことになるかと平均約定価格を、上の例のように計算できます。ただし画面に見える板は一瞬の姿なので、注文が届く前に取り消されたり変わったりすることがあり、大きな気配が本当に約定する注文だという保証もありません。注文を分けたり指値を使ったりする方法は、スリッページを減らす代わりに、約定しないリスクや時間の経過による価格変化を引き受ける選択なので、どちらが良いとは決まっていません。実際に約定した平均価格を記録しておき、注文直前の価格と比べれば、自分の売買でスリッページがどれくらいかを数字で知ることができます。
このサイトのツールで見る
このサイトの暗号資産の板オークションは、バイナンスの気配を20段は1秒ごと、500段は10秒ごとに受け取り、買い・売りの残量比率、マーケットデプス、大きな気配の壁、大口約定を表示するので、自分の注文が何段まで届くかを見積もるのに使えます。暗号資産戦略バックテスターは、買いの約定価格を 始値 ×(1 + スリッページ)、売りの約定価格を 始値 ×(1 − スリッページ)で計算し、初期値のスリッページ0.05%と手数料0.1%を変えられるので、コストの仮定によって結果がどう変わるかをすぐに見られます。株式戦略バックテスターも国内外の株式の過去相場でコストを反映して結果を比べます。板を読むときにだまされやすい点は「板の読み方」の記事に整理しています。
限界とお断り
この記事の気配とコストの数字は計算の仕組みを示すための例で、実際の市場の値ではありません。実際のスリッページは取引所、銘柄、時間、注文の大きさ、相場の状況によって大きく変わり、画面の気配は注文が届く前に変わることがあります。取引所ごとに注文の種類や約定のルールが違うので、実際に注文する前にはその取引所の案内を確認してください。この記事は約定の仕組みとスリッページを説明したもので、特定の売買を勧めるものではなく、投資助言ではありません。
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